「作法のためのリマインダ」 のための 覚書

構成 -Sturucture-

近鉄八木西口駅を下りてほどなく、大きな蘇鉄の木のある橋を渡り、路地を入ると、ガラッと風景が変わる。今井町は重要伝統建築物群保存地区として制定されており、家屋は昔ながらの町屋造りを残しながら集合している。碁盤の目のように張り巡らされた道組みは、ところどころがズラされ、死角が作られている。


今井町地図

駅側から町に入り、最初の角を左に曲がったところに、「中野町家」がある。中野町家は明治〜大正にかけて建てられた町家造りの家屋で、小さいながら伝統的な骨組みを残している。


町家が通り土間という半公共のスペースを残しているように、中野町家には企画の間口の役割を担ってもらうことにした。キャッチーな見た目でありながら、構造的に作られた宮田篤(みやた あつし)、の「チラシ彫刻」、「ちくちく地区」が来場者を迎える。折を見て宮田による微分帖(びぶんちょう)ワークショップ、村上慧(むらかみ さとし)による持ち寄り鍋が開催される。二階には、青田真也(あおた しんや)の版画作品と削られた瓶のオブジェクトが日の変化を浴びながら静かにある。二階部は、朽ちた新建材が天井から垂れ、一階部が最近まで朽ちた様相であったことを示唆する。


中野町家を出て町の南西にしばらく歩くと、「元トウネ精米工場」がある。数十年前までは営業していて、現在は倉庫として使われている。町家の構造を残しながら、シャッターが取り付けられ、天井が抜かれ、元々二軒であったものを一軒とし、屋外であった部分が屋内に取り込まれている。米屋であったことを示す様々な什器や精米用の機械、町の中でも重要な立ち位置であったことを示すように運動会の優勝旗も保管されている。ハリボテのように壁じゅうに張り巡らされたブリキの板は、米につくコクゾウムシ対策かと思われる。

薄暗い元精米工場の中に入ると、無数の微分帖(びぶんちょう)が「ことばの壁」として木材部分を覆っている。中野町家で作られた微分帖も逐次こちらに移されていく。これらは、観客が壁の中の物語を探して読むことができるようになっている。

奥に行くほど薄暗くなり、加藤巧(かとうたくみ)による「描き(えがき)」のサンプルが示されたその奥は、足元も見づらい暗さになっている。

床に投影された映像は、抽象的な画像を絶え間なく映し続ける。上方で鳴る機械音に気づくと、上がることのできない2階部分にビデオカメラが往復しているのに気づく。床に投影されているのは、町中の地面の境界から境界を跨ぐ瞬間の映像である。そして、ビデオが現在撮影している映像は、入り口近くのモニタに接続され、これもまた建物の内部を電波を介して越境している。隠されたスピーカーからは、数分ごとにランダムに虫の音が鳴る。(村上慧「虫システム」)

宙吊りになった加藤の「4x4」は、4色の顔料が4パターンの交わり方をしている状態を立体化した絵画であり、本企画の構造的な骨組みを示している。

建物の最深部は最も暗く、ブリキに囲まれた小部屋にはたくさんの茶碗が、そしてその隣の部屋には一つの茶碗が古い食器棚に置かれている。微細に観察することで気づいていくのは、表面が研磨され同質化したかのようなプラスチックと陶器の茶碗である。古い食器棚に置かれたものは倉庫から出てきた陶器の茶碗、プラスチックのものはごく最近の大量生産物である。表面の情報が剝がされることで、物は見方を変える。


本企画は、この二軒で構成されている。そしてその構造は、碁盤状でありながらところどころズレの入れられた町組と抽象的にリンクする。また、物を作る際に動作を構造的に組み立てていくプロセスにも同様にリンクしている。


本企画は、これ以上のことを示唆しない。様々な方法と構造と微細な感性の関わりと時間の連なりが示されている。

平面図